Individual Tax

トランプ次期大統領政権下で予想される税制の概要

2024年11月5日のアメリカ大統領選挙により、ドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に選出され、共和党が上院での過半数の議席を獲得しました。

2025年以降の税制政策の方向性を示す指標として、トランプ次期大統領の公約と選挙活動中の税制提案に注目が集まっています。

特に、第一次トランプ大統領任期中に署名された2017年税制改革法案(P.L.115-97の一部。The Tax Cuts and Jobs Act (TCJA))の多くの条項が2025年末で失効を迎え、その延長または恒久化が見込まれています。

早ければ、2025年半ばにも、新税法が決まり始めるとの予想もあります。

下記は、多くの個人納税者や法人納税者に影響を及ぼすであろう条項の一部を抜粋し、2024年12月3日時点における今後の動向に注意を払っておきたい項目のまとめになります。

目次

  • 個人所得税に関しての注目点
  • パススルーに対する所得税に関しての注目点
  • 法人税に関しての注目点
  • 遺産税・贈与税に関しての注目点

個人所得税に関しての注目点

項目 現在の税法/TCJA 2026年以降の予定/TCJA失効後 今後の注目点
限界税率 10%、12%、22%、24%、32%、35%、37%。

各税率が適用となる課税所得額のインフレ調整あり。

10%、15%、25%、28%、33%、35%、39.6%。

各税率が適用となる課税所得額のインフレ調整あり。

・トランプ次期大統領は、TCJAでの最高限界税率の支持を表明。
概算額控除 2018年
独身者:$12,000
夫婦合算申告者:$24,000

2024年

独身者:$14,600
夫婦合算申告者:$29,200
インフレ調整あり。
TCJA前(2017年)
独身者:$6,350
夫婦合算申告者:$12,700

TCJA失効後

TCJA前と同レベルに戻る予定(2017年の控除額参考)。
インフレ調整あり。
・トランプ次期大統領は、TCJA水準での概算額控除額の支持を表明。

・TCJAの恒久的措置がとられない場合は、概算額控除は現在の約半分。

人的控除 2018年から2025年まで
$0
TCJA前(2017年)
$4,050

TCJA失効後
TCJA前と同レベルに戻る予定(2017年の控除額参考)。
インフレ調整あり。
・人的控除の取れたTCJA前は、高額所得者は人的控除が段階的に減額。

・人的控除が取れる所得範囲において、扶養家族の数は税額に影響する為、扶養家族の多い納税者は今度の動向に注目。

チャイルドタックスクレジット 適格子女一人に付き$2,000。
(高額所得者には段階的減額が適用)。
適格子女一人に付き$1,000。
(高額所得者には段階的減額が適用)。
・トランプ次期大統領は、TCJA水準でのチャイルドタックスクレジット額の支持を表明。
引越費用控除(Above-the-Line Deduction) 米軍のみ転勤費用控除の対象。 条件を満たす全ての納税者が転勤費用控除の対象。 ・転職に伴う引越を予定している納税者は、今後の動向に注目。
州税・市税控除(項目別控除の一部) $10,000が限度額。 限度額無し。 ・トランプ次期大統領は、$10,000の限度額の失効に対して支持を表明。
住宅ローンにかかる利息控除(項目別控除の一部) 主たる住居を含む二件分までの住宅ローンの内、
夫婦合算申告者:$750,000
夫婦個別申告者:$375,000
までにかかる利息が控除可能。

ホームエクイティローンにかかる利息控除は無し。
主たる住居を含む二件分までの住宅ローンの内、
夫婦合算申告者:$1,000,000
夫婦個別申告者:$500,000
までにかかる利息が控除可能。

$100,000までのホームエクイティローンにかかる利息も控除可能。
・住宅の購入以外の高額出費(例:結婚式、学費、住居の改築、等)をホームエクイティローンでまかなう予定がある納税者は、今後の動向に注目。
その他の項目別控除(項目別控除の一部) その他の項目別控除は設けていない(例、払い戻しがされていない職場でかかった経費、申告書作成費用、等)。 その他の項目別控除の総計が調整総所得の2%を超過する場合に追加の控除が可能。 ・自営業者として経営をしている場合は、項目別控除ではなくSchedule Cにて経費の控除が可能。

・従業員として従事し、雇用主から払戻がされない高額経費がある納税者は、今後の動向に注目。

代替ミニマム税に対する控除額と段階的減額 2018年の控除額
独身者:$70,300
夫婦合算申告者:$109,400

2024年の控除額

独身者:$85,700
夫婦合算申告者:$133,300

2018年の控除額の段階的減額
独身者:$500,000
夫婦合算申告者:$1,000,000

2024年の控除額の段階的減額

独身者:$609,350
夫婦合算申告者:$1,218,700
から開始。
インフレ調整あり。
TCJA前(2017年)の控除額
独身者:$54,300
夫婦合算申告者:$84,500

2017年の控除額の段階的減額

独身者:$120,700
夫婦合算申告者:$160,900
から開始。

TCJA失効後

TCJA前と同レベルに戻る予定(2017年の控除額と段階的減額開始金額参考)。
インフレ調整あり。
・トランプ次期大統領は、代替ミニマム税に対する控除額と段階的減額を恒久的な措置とする案を表明。

・TCJAの恒久的措置がとられない場合は、控除額は低くなり、段階的減額も低額から始まる為、項目別控除で節税対策を行ったとしても、代替ミニマム税にかかる可能性あり。

TCJAの制定により、多くの納税者が概算額控除(所謂、Standard deduction)を適用する運びとなりました。

これは、項目別控除(所謂、Itemized deduction)で一般的に高額を占める、州税と市税に$10,000の制限がかかるようになったのが主な原因と考えられます。

TCJA前は、概算額控除額より州と市に納めた所得税(源泉徴収税)、固定資産税、動産税を主な項目とした項目別控除をクレームする申告書が目立っていた様に思います。

今後の注目点としては、トランプ次期大統領はTCJA水準での概算額控除を保持し、州税と市税の$10,000の項目別控除の制限の失効に支持を示しています。

2018年から2025年までは住宅ローンを組んで住居を購入したり、持ち家の固定資産税を納めても項目別控除で節税につながるケースは稀でしたが、2026年からは税制次第で項目別控除を考慮した節税を考慮する機会が訪れる可能性があります。

下記は、今後の政策がどの様に概算額控除と項目別控除の選択に影響を与えるかを、細かい点は省いて比較した表になります。

夫婦合算申告のケース 2024年 2026年(TCJA失効の場合)
概算額控除 $29,200 $12,700(2017年の数字)
項目別控除 州・市の源泉徴収税  $10,000

固定資産税      $25,000

合計         $35,000

制限あり       $10,000

$29,200と$10,000を比較して$29,200を使用する。

州・市の源泉徴収税    $10,000

固定資産税        $25,000

合計           $35,000

制限なし         $35,000

$12,700と$35,000を比較して、$35,000を使用する。

例証目的の為、詳細は省く。

その他には、チップ所得やオーバータイム、年金(Social Security Benefits)に対する非課税等に対しての案が表明されています。

その案が法律化された場合は、年金生活者は個人所得税の大幅な減額が見込まれます。

個人納税者以外にも、チップ所得やオーバータイムが該当する従業員を抱える事業主も、それらが給与税や源泉徴収税の対象になるのかどうか等の動向に目を向け、今後の税対策を考慮する必要があります。

パススルーに対する所得税に関しての注目点

項目 現在の税法/TCJA 2026年以降の予定/TCJA失効後 今後の注目点
セクション199A控除(パススルービジネス所得) 適格パススルービジネス所得の20%が控除可能。 セクション199A控除はTCJAで新たに制定された控除の為、TCJAの失効後は、パススルービジネス所得はその他の通常所得と同じ扱いに戻る。 ・トランプ次期大統領は、セクション199A控除を恒久的な措置とする案を表明。

TCJAは、個人事業主やLLC、Partnership等の連邦所得税法上その事業体には課税されず、その事業体の収益が事業体の所有者の申告書で申告されるパススルーに対して20%の特別控除を設けました。

主に米国内で事業を行う個人納税者がセクション199A控除の対象になります。

自営業者や個人事業主、サイドビジネスの収支をSchedule Cで報告する納税者は、セクション199A控除の動向を見極めながら税計画を立てるのが賢明かと思います。

法人税に関しての注目点

項目 現在の税法/TCJA 2026年以降の予定/TCJA失効後 今後の注目点
減価償却・資産償却 TCJAにて特別償却として加速度償却が制定。

2018年から2022年までは取得価格の100%、2023年は80%、2024年は60%、2025年は40%、2026年は20%の追加の加速度償却が認められる。

2027年以降は0%。

資産を取得した事業年度より、資産の種類によって毎年償却。 ・トランプ次期大統領は、資産を取得した事業年度に取得価格の100%が償却できる加速度償却への支持を表明。

・高額資産の取得を計画している場合は、今後の動向に注目。

法人税率 21% (TCJA前は35%) 21% ・変更予定はないものの、トランプ次期大統領は米国製造業への15%の法人税の適用と、米国外にアウトソースする企業への高い関税案を表明。
税源浸食濫用防止税(The Base
Erosion and Anti-Abuse Tax (BEAT))
10% 12.5% ・国際間取引に対する税制への方向性には注目。
米国外軽課税無形資産所得(Global Intangible Low-Taxed Income (GILTI)) 10.5% 13.125% ・国際間取引に対する税制への方向性には注目。
外国源泉無形資産関連所得控除(Foreign-derived Intangible Income deduction (FDII)) 13.124% 16.4% ・国際間取引に対する税制への方向性には注目。

TCJAの制定により、連邦法人税に対する考え方が大きく変わりました。

TCJAで制定された加速度償却は段階的に失効する予定ですが、トランプ次期大統領は、100%の加速度償却の再制定へ支持を表明しています。

高額設備投資や無形資産の取得を計画している場合は、今後の動向に注目して計画を立てる必要があります。

特別償却の比較

下記は、今後の減価償却に対する政策がどの様に法人税に影響を及ぼすかを、細かい点は省いて比較した表になります。

2024年 2026年(100%特別減価償却が再制定された場合)
特別減価償却費率 60% 100%
法人税 売上            $8,000K
減価償却費  $10,000K *60% = $6,000K
課税所得          $2,000K
税率              21%
法人税            $420K
売上          $8,000K
減価償却費$10,000K *100% = $10,000K
課税所得        ($2,000K)
税率            21%
法人税            $0
繰越欠損金       ($2,000K)

例証目的の為、詳細は省く。

また、第一次トランプ大統領任期中に実現できなかった法人税15%に対しても動向が見守られ、米国への進出・投資のタイミングを見極めてビジネス計画を立てる必要が求められます。

更に、クロスボーダーの法人税に対する公約は出てきていませんが、関税の増加等ではまかないきれない財政悪化が進む見込みの為、歳入増加を模索する事が考慮されます。

引き続き、国際間取引に関する税制への方向性には注目しておく必要があります。

遺産税・贈与税に関しての注目点

項目 現在の税法/TCJA 2026年以降の予定/TCJA失効後 今後の注目点
非課税額 TCJAにて2018年から2025年の非課税額が倍増。

2021年
$11.7Million

2022年
$12.06 Million

2023年
$12.92Million

2024年、2025年
$13.61Million。

TCJA失効後
TCJA前(2017年)の$5 Millionの水準に戻る予定(インフレ調整あり)。
・トランプ次期大統領は、TCJA水準の非課税額を恒久的な措置とする案を表明。

TCJAにて遺産税の非課税額が倍増した為、連邦遺産税にかかる納税者の数は減少していたと思われます。

トランプ次期大統領は、TCJA水準での非課税額を恒久的な措置とする案を表明していますが、TCJAにて引き上げられた非課税額が失効すると、遺産税の対象になる納税者の増加が見込まれます。

米国では、資産の移転に対する税金として、生涯にどれだけの贈与と遺産がだれにいくら非課税で行えるかを判断します。

生前に贈与税の非課税枠を使用して、遺産税対策を検討するのも懸命な選択になるかもしれません(上記金額は、連邦所得税法上の米国居住者ではなく、遺産税・贈与税法上の米国市民、並びに米国ドミサイル者に適用されます)。

まとめ

トランプ次期大統領政権下で予想される税制の概要について解説いたしました。

税制改正は、経営戦略や財務計画に大きな影響を与える可能性があります。

当事務所では、最新の税制動向を追いながら、米国で活躍される日系企業や日本人の皆様に最適なアドバイスを提供しております。

ご不明な点や詳細なご相談が必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。