J1ビザ保有者の税務及びタックスリターン
交流訪問者プログラムの J ビザは、教育、芸術、科学の分野における人材、知識、技術の交流を促進するためのビザです。プログラムの主目的が研修や技術の向上であるため、J ビザ保有者には他のビザにはない様々なタックスメリットが付与されております。その反面、アメリカの確定申告(タックスリターン)においては様々な例外処理が要求され、複雑な手続きが必要になる場合がございます。故に、会計事務所でも見解が分かれたり、困惑する方も多い論点です。
もちろんその全てをここでお伝えすることはできませんし、逆に全てを記載してしまうとわかりにくくなってしまいますので、重要なポイントにつき下記に纏めています。
J1 VISAのタックスメリットとは?
- Social Security Taxが2年間免除
- Medicare Taxが2年間免除
- 教育・研究機関からの報酬にかかるFederal Taxが2年間免除 (2019年租税条約の改訂で廃止)
J1ビザの一番のメリットとして、ビザの目的に沿うような米国収入から生じた報酬に対してSocial Security TaxとMedicare Taxと呼ばれる日本の社会保険に相当する税が2年間免除になる点があげられます。通常報酬額の7.65%をこの2つのTaxにより支払う必要があるため、J1ビザの方にとって大きな特別待遇と言えます。
なお、最初の2年間とは、J1 として入国後2年分のタックスリターンの期間を指し、例えば渡米が2018年12月20日だった場合、2018年が1年目、2019年が2年目となり、2020年は免除期間外となります。
また、米国の教育・研究機関から報酬を受領しているJ-1 Visa所持者の方々は、上記の他にビザの目的に沿うような教育又は研究から生じた報酬に対しFederal Taxと呼ばれる所得税が2年間免除になる場合があります。但し、全世界において免税となるわけではなく、日本で確定申告等で課税を受けている方のみが対象となります。なお、2019年の租税条約改定により2019年11月以降に支給される報酬については当該制度の適用が廃止されております(2019年8月以前にJ-1 Visaを取得された方は適用可) 。
米国外からの報酬の例外規定(非居住者期間の延長)
上述の通り、Federal Tax免除のメリットは原則として入国後2年間のみ有効です。しかし、J-1 VISAの方の中には、米国で働いてはいるものの日本の教育機関や政府(日本学術振興会)などの米国外の機関から報酬を受領している方もいらっしゃいます。このように、過去2年間を含むすべての報酬が米国外の機関からである場合、例外的に追加で2年間(合計4年)非居住者ステータスを維持することができ、Federal Tax免除の恩恵を受けることができます。
確定申告は必要か?
米国源泉所得がある場合、原則としてその金額の多寡にかかわらず確定申告が必要になります。 日本では年末調整という制度があるため、給与所得者の場合限られた方のみ確定申告を行いますが、アメリカではほぼ全ての所得者が確定申告をする必要がございます。
研究者の方で米国の金融機関からの給与等の受け取りがある場合には、仮にFederal Taxが最終的に免除されるとしても受取金額がいくらであったかを報告し、そのうちいくら(もしくは全額)が非課税所得となるかをタックスリターン上で報告しなければなりません。
確定申告って何をするの?
J1 ビザ保有者は、年間の滞在日数に拘わらず最初の2年間は税務上非居住者とみなされます。従い、非居住者としての確定申告書類である「Form 1040NR」という申告書を4月15日までにIRSへ提出する義務があります(消印有効)。また、滞在日数に拘わらず非居住者として扱われるExempt Individualに該当するため、その報告書類である「 Form 8843」を提出することが義務付けられております。
確定申告は、延長申請をすることにより6カ月の延長が可能ですが、税金の支払いの延長はないため、追加で納税が必要な場合は4月15日までに納付が完了していないと利子が加算されます。
なお、3年目以降は、居住者としての確定申告書類である「Form 1040」という申告書を提出します。
確定申告に必要な書類は?
確定申告は自分の所得を申告して税額を算出する作業です。従い、自分の所得を正確に把握できる資料を用意する必要がございます。J1ビザの方のほとんどは給与所得を受け取っているため、その証明書類であるW2が必要になります。W2は1月31日までに従業員に提出する義務があるため、雇用主から当該期日までに自宅に郵送されます。その他、配当所得、特許収入、不動産所得等で米国源泉のものがある場合、当該所得に関する資料も用意する必要がございます。
配偶者及び子供のSSN/ITIN取得は必要?
非居住者の申告においては、夫婦合算申告を行うことはできません。従い、配偶者の方が働いていない場合にはSSN/ITINを取得する必要はございません。
申告対象の収入は?
非居住者の申告対象の収入は米国源泉所得のみになります。すなわち、米国入国前の日本で稼得した収入や、米国入国後の日本における不動産収入は申告の対象外となります。
非課税収入とは?
上述の通り、J1ビザの研究者・教授職の方の場合、日米租税条約により、大学、学校その他の教育機関において教育又は研究を行った対価として貰った給与は、米国入国後最初の2年間は非課税収入となります。確定申告書上で申告義務はございますが、当該給与について課税されることはございません。但し、研究目的とは直接関係しない業務に対する対価については通常通り課税対象となります。
帰国年の確定申告は?
12月31日時点に米国滞在か否かにかかわらず、年内に米国源泉所得が少しでもある場合には上記と同様の確定申告をする必要があります。申告を行うタイミングも上記と同様になるため、帰国年の確定申告については、日本に帰ってから行うことになります。申告対象はアメリカ源泉所得のみで、帰国後の日本源泉所得を含める必要はありません。銀行口座の要否を心配される方が多くいらっしゃいますが、アメリカの銀行口座をお持ちでなくてもクレジットカードや銀行海外送金を使い政府機関に対しての支払いが可能です。また、リファンドもチェックで日本国内の住所に受け取る事ができるため必ずしも銀行口座を保有し続ける必要はございません。
3年目以降の確定申告は?
J1ビザは通常短期間の研修が想定されているため、上記例外を除き3年目以降は特例処置はなくなります。すなわち、他の居住者同様、Form 1040の提出が必要になります。居住者として扱われる事による大きな変化は米国源泉収入のみではなく、米国外収入にも課税される点です。しかし一方で、非居住者では得られなかった税的恩恵を得ることができます。
非居住者として確定申告する場合、例え結婚していたとしても個々で確定申告を行う必要があり、また、標準控除(Standard Deduction)を適用することができません。一方、居住者として確定申告する場合、申告は夫婦合算で行え、また、標準控除 や扶養控除が使えるようになります。2019年度の場合、標準控除額は個人の場合$12,200、夫婦合算の場合は$24,400となります。仮に2019年度夫婦合算所得が$100,000だった場合、課税所得は$100,000から$24,400を引いた$75,600となります。標準控除の代わりに非居住者が使用する項目別控除 (Itemized Deduction)の場合、一番大きな要素は州税、市税の控除ですが、$10,000の上限があり標準控除よりも有利になるケースは非常に稀です。言い換えれば、標準控除額を適用することにより、一般的に課税所得が低くなり、結果、税額を減少させることができます。
なお、夫婦合算申告をする場合、配偶者の方はSSN又はITIN(米個人納税者番号)を入手する必要があります。J1ビザの配偶者であるJ2ビザの場合、EAD(労働許可書)を移民局から入手すると、SSNを入手することができます。労働許可が必要がない場合、確定申告時にITINを申請致します。
扶養控除は、主に子供がいらっしゃる方にとってお得な控除システムです。Child Tax Credit (CTC)とCredit for Other Dependents (COD)の2種類がございます。子供一人当たりCTCは最大$2,000、CODは$500の税額控除を受けることができます。但し、CTCの適用には子供がSSNを保持している必要があるため、通常米国生まれの子供を除き当該控除を適用することはできません。一方で、ITINは確定申告時に申請書類及び必要書類を提出すれば取得することができるため、CODはどなたでも通常取得することが可能です。
注:州税(State Tax)の申告について
上述の記載は全て連邦税(Federal Tax)に関する記載となっております。州税の取り扱いは各州の法律によって異なります。例えば、ニューヨーク州やマサチューセッツ州は大部分でFederalと同様のルール(日米租税条約)が適用されますが、カリフォルニア州では特別な記載がない限りは日米租税条約等は適用されません。
J1 ビザ保有者の税務について、少しはお分かりいただけましたでしょうか。アメリカの税務についてご質問がある場合やタックスリターンの作成サービスをご利用されたい方は、お気軽に弊社までご連絡ください(info@univis-america.com)。
監修者
小林 賢介
早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。