Corporate Tax

米国税制における交際費の取り扱い

米国における交際費(Entertainment expenses)は、ビジネス活動において重要な役割を果たす費用項目の一つです。

交際費には「飲食費(Meals)」と「娯楽費用(Entertainment)」の2種類が含まれ、それぞれ異なる税務上の取り扱いがあります。

この記事では、交際費の米国税制における基本的な取り扱いについて説明します。

目次

  • 交際費の定義と米国税制の概要
  • 交際費控除の基本要件
  • 具体的な交際費の例と取り扱い
  • 交際費が損金として認められなかった場合のリスク
  • 交際費の記録保持と税務監査対策
  • 参考条文とガイダンス

交際費の定義と米国税制の概要

(1)交際費の定義

交際費とは、ビジネス目的で発生する接待、娯楽、レクリエーション活動の費用を指します。

交際費は大きく「飲食費」と「娯楽費用」に分類されます。

■飲食費(Meals)

ビジネス関連の食事費用で、会議、出張、取引先との会食など、ビジネス目的で発生する食事に関連する費用です。

■娯楽費用(Entertainment)

取引先や従業員を娯楽活動に招待する際に発生する費用で、スポーツイベント、コンサート、社交行事などが含まれます。

(2)飲食費の重要性と控除

飲食費は、ビジネス関係を構築し、顧客や取引先との関係を強化するために重要です。

ビジネスディナーやランチミーティングなど、業務上必要な食事は、通常50%が控除可能です。

■娯楽費用の重要性と控除制限

娯楽費用は、顧客や取引先との関係を深め、新たなビジネス機会を創出するために重要です。

しかし、2017年の税制改革法(Tax Cuts and Jobs Act, TCJA)により、娯楽費用の控除は大幅に制限されました。

娯楽費用の控除制限

  • 控除不可:一般的な娯楽費用は控除対象外です。
  • 例外:プロモーション活動や従業員の福利厚生の一環として行われるアニュアルパーティー等の娯楽イベントは、適切な記録を保持することで控除が認められる場合があります。

(3)米国税制の基本概要

米国税制では、交際費の控除に関して以下の基本ルールが適用されます。

基本ルール

  • ビジネス関連性の証明:交際費がビジネス目的であることを証明する必要があります。
  • 通常性と必要性:交際費がビジネス活動の一環として通常必要とされるものであること。
  • 充分な記録保持:交際費の控除を受けるためには、詳細な記録を保持することが求められます。

交際費は、ビジネスの成功に重要な役割を果たしますが、米国税制においては特定の要件を満たす必要があります。

飲食費と娯楽費用の違いを理解し、それぞれの控除条件や記録保持の要件を遵守することで、交際費の適法な控除を実現できます。

次のセクションでは、交際費控除の具体的な要件について詳しく見ていきます。

交際費控除の基本要件

本セクションでは、交際費控除の基本要件について詳しく解説します。

(1)ビジネス関連性の証明

交際費が控除されるためには、その支出がビジネス目的であることを証明しなければなりません。

具体的には以下の要素が求められます。

■ビジネスの直接関連性

交際費は、企業の収益を増加させるために直接関連する活動でなければなりません。たとえば、顧客や取引先との会議や商談などです。

■事前または事後のビジネスディスカッション

交際費の支出前後にビジネスに関するディスカッションが行われた場合、その関連性を証明しやすくなります。

(2)通常性と必要性

交際費がビジネス活動の一環として通常必要とされるものであることも重要です。

以下の点が考慮されます。

■業界標準

交際費が同業他社でも一般的に発生しているものであるかどうかが評価されます。

業界標準に基づく支出は通常性が認められやすくなります。

たとえば、高級レストランでの頻繁な会食がその業界で一般的である場合、それは「通常的」と見なされます。

■ビジネス目的の合理性

交際費が合理的かつ必要であるかどうかが判断されます。

たとえば、顧客との関係を強化するための会食やネットワーキングイベントは合理的な支出と見なされます。

(3)充分な記録保持

IRS(Internal Revenue Service)は、具体的な金額基準を設けるのではなく、支出の通常性と必要性を証明するための詳細な記録保持を重視しています。

交際費の控除を受けるためには、詳細な記録を保持することが求められます。

以下の情報を含む記録が必要です。

■日付と場所

交際費が発生した日付と場所を明確にする。

■費用の金額

支出の金額とその内訳を記録する。

■ビジネス目的の説明

交際費のビジネス関連性を説明する文書を作成する。

■同伴者の名前とビジネス関係

交際費に関与した人物の名前とそのビジネス上の関係を記録する。

(4)具体例

以下に、交際費控除の基本要件を満たす具体的な例を示します。

具体例

  • 顧客とのディナー:顧客とのビジネスディナーの場合、会食の前後にビジネスのディスカッションが行われ、その内容が記録されていることが重要です。費用の50%が控除可能です。
  • ネットワーキングイベント:業界イベントやカンファレンスに関連する交際費は、そのイベントがビジネスの発展に寄与するものであることを証明する必要があります。

交際費の控除を受けるためには、ビジネス関連性、通常性と必要性、そして詳細な記録保持が不可欠です。

これらの基本要件を理解し、適切に対応することで、税務上の問題を回避しつつ、合法的に交際費控除を活用することができます。

次のセクションでは、具体的な交際費の例とその取り扱いについて詳しく見ていきます。

具体的な交際費の例と取り扱い

交際費の控除を適用する際には、具体的な支出内容や状況に応じて取り扱いが異なります。

このセクションでは、具体的な交際費の例を挙げ、それぞれの取り扱い方法について解説します。

(1)顧客とのビジネスディナー

例:取引先の担当者をレストランに招待し、ビジネスの打ち合わせを行う。

取り扱い

  • 控除対象:食事費用の50%が控除可能です。
  • 必要な記録:会食のビジネス目的、日付、場所、費用の金額、同伴者の名前とビジネス関係を記録する必要があります。

(2)社内ビジネスミーティングの食事

例:社内会議の際に提供されるランチやディナー。

取り扱い

  • 控除対象:食事費用の50%が控除可能です。
  • 必要な記録:ミーティングの目的、日付、場所、費用の金額、参加者のリストを保持することが求められます。

(3)顧客をスポーツイベントに招待

例:新しい取引を促進するために、顧客をプロ野球の試合に招待する。

取り扱い

  • 控除対象外:TCJAの規定により、娯楽費用は控除対象外です。
  • 例外:イベントが会社のプロモーション活動の一環として行われる場合は、適切な記録を保持することで控除が認められることがあります。

(4)業界イベントや展示会

例:業界の展示会に顧客を招待し、展示会後にレセプションを開催する。

取り扱い

  • 控除対象:ビジネス目的であれば、展示会やレセプションの費用は控除対象となりえます。食事費用は50%控除、プロモーション関連費用は全額控除が可能です。
  • 必要な記録:展示会やレセプションのビジネス目的、日付、場所、費用の金額、参加者のリストを詳細に記録することが重要です。

(5)従業員向けの福利厚生イベント

例:年次パーティーやピクニックなど、従業員の士気を高めるためのイベント。

取り扱い

  • 控除対象:従業員の福利厚生として提供される場合、全額控除が認められることがあります。
  • 必要な記録:イベントの目的、日付、場所、費用の金額、参加者のリストを記録することが求められます。

(6)社食(食堂)

例:企業が従業員に対して定期的に提供する食事施設や食堂での食事。

取り扱い

  • 控除対象:特定の条件を満たす場合、社食の費用は100%控除が認められます。
  • 業務必要性:食事が業務のために必要である場合(例:勤務中に社員がオフィスを離れることが困難な状況)。
  • 便益供与の割合:従業員の半数以上が便益を受けている場合。

適用条文

  • IRC Section 119:仕事の便宜上、従業員に提供される食事は、従業員の収入として扱わない。
  • IRC Section 132(e):社食は、一般に従業員の福利厚生として扱われ、特定の条件下で控除が認められる。

(7)100%控除が認められない食事費用

例:社員の誕生日祝いとして提供される食事や、純粋に社交目的で社費にて従業員に提供される食事。

取り扱い

  • 控除対象外:ビジネス関連性が証明できない食事費用は控除対象外です。
  • 記録保持:これらの食事費用がビジネス目的であることを証明するために、適切な記録を保持することが重要です。

具体的な交際費の取り扱いは、その支出内容やビジネス関連性に応じて異なります。

適切な記録を保持し、各支出がビジネス目的であることを証明することで、交際費控除の適用を正しく行うことができます。

交際費が損金として認められなかった場合のリスク

交際費や接待費用は、企業活動において欠かせないものですが、これらの費用が税務上の損金として認められない場合、企業や経営者、従業員にとって大きなリスクが生じる可能性があります。

特に、税務当局がこれらの費用を「交際費」ではなく「個人的な利益」と見なす場合、企業は損金算入ができないだけでなく、従業員や経営者に対して追加の税金が課される可能性もあります。

本セクションでは、こうしたリスクについて詳しく解説し、慎重な経費管理の重要性を強調します。

(1)交際費が損金算入できなかった場合の影響

交際費が税務上の損金として認められなかった場合、企業はその費用を控除することができません。

これにより、課税所得が増加し、法人税負担が増えるリスクがあります。

  • 損金算入の否認: 税務当局が交際費を損金として認めなかった場合、当該費用は企業の経費として計上されません。
  • 法人税の増加: 損金算入が否認されると、課税所得が増加し、結果として企業の法人税が増加します。

(2)個人に対する課税のリスク

交際費や接待費用が損金として認められなかった場合、その費用が従業員や経営者の個人的な利益と見なされることがあります。

この場合、税務当局はその費用を「給与」として扱い、個人に対して追加の課税を行う可能性があります。

  • 経営者の個人的支出: 社長や役員が交際費として計上した食事代や娯楽費用が、実際には個人的な支出と見なされると、その分が個人の給与として課税されるリスクがあります。
  • 従業員へのベネフィット: 従業員に対して提供された福利厚生やその他のベネフィットが、経費として損金算入されず、個人の給与と見なされる場合、その従業員に対して追加の所得税が課される可能性があります。

(3)慎重な行動と事前の対策

交際費の取り扱いには慎重な行動が求められます。

特に、経営者や従業員が個人的に利用する可能性のある経費については、事前に税務専門家と相談し、適切な処理を行うことが重要です。

  • 事前の税務相談: 大きな交際費や接待費用を計上する前に、税務専門家に相談し、その費用が損金として認められるかどうかを確認します。
  • ポリシーの明確化: 企業内で交際費や接待費用に関するポリシーを明確にし、従業員に周知徹底することで、不適切な経費計上を防ぎます。

交際費が税務上の損金として認められなかった場合、企業にとって法人税の増加だけでなく、個人に対する追加課税のリスクも伴います。

このリスクを回避するためには、詳細な記録保持と慎重な経費管理が不可欠です。

企業として、適切な経費処理を行い、税務リスクを最小限に抑えるための対策を講じることが求められます。

交際費の記録保持と税務監査対策

交際費の控除を適用するためには、詳細な記録保持と適切な税務監査対策が不可欠です。

このセクションでは、交際費の記録保持のポイントと、税務監査に備えるための具体的な対策について解説します。

(1)記録保持の重要性

税務当局に対して交際費の控除を主張する際には、支出の正当性とビジネス関連性を証明するための記録が重要です。

以下の情報を詳細に記録することが求められます。

■日付と場所

交際費が発生した日付と場所を明確にする。

■費用の金額

支出の金額とその内訳を記録する。

■ビジネス目的の説明

交際費のビジネス関連性を説明する文書を作成する。

■同伴者の名前とビジネス関係

交際費に関与した人物の名前とそのビジネス上の関係を記録する。

(2)記録保持の具体的な方法

交際費の記録保持には、以下のような具体的な方法が有効です。

■領収書の保存

すべての交際費に関する領収書を保存する。

領収書には、支出の詳細(店舗名、日付、金額など)が記載されています。

■支出ログの作成

交際費の支出ログを作成し、日付、場所、費用、ビジネス目的、同伴者の情報を記録する。

デジタル形式のログでも問題ありません。

■ビジネスディスカッションの記録

交際費が発生した前後のビジネスディスカッションや会議の議事録を保持する。

これにより、交際費のビジネス関連性を証明しやすくなります。

(3)税務監査対策

税務監査に備えるためには、以下の対策を講じることが重要です。

■一貫性のある記録

交際費の記録が一貫しており、矛盾がないことを確認する。

例えば、会食のビジネス目的と実際のビジネス活動が一致していることを確認します。

■文書の整理

交際費に関するすべての文書を整理し、容易にアクセスできる状態にしておく。

税務監査が発生した際に迅速に対応できるようにします。

■定期的な見直し

交際費の記録と控除の適用方法を定期的に見直し、最新の税制規定に準拠していることを確認する。

(4)交際費管理のベストプラクティス

交際費の管理には、以下のベストプラクティスを導入することが推奨されます。

ベストプラクティス

  • 社内ポリシーの策定:交際費の支出と記録に関する明確な社内ポリシーを策定し、従業員に周知徹底する。
  • 定期的なトレーニング:交際費の管理と記録保持に関する定期的なトレーニングを実施し、従業員の理解と遵守を促進する。
  • 専門家の活用:必要に応じて税務の専門家や会計士を活用し、交際費管理と税務監査対策を強化する。

交際費の控除を適用するためには、詳細な記録保持と適切な税務監査対策が重要です。

適切な記録を保持し、一貫性のある管理を行うことで、税務上の問題を回避しつつ、合法的に交際費控除を活用することができます。

参考条文とガイダンス

米国税制における交際費の定義と範囲に関する根拠条文やIRSのガイダンスについては、以下のようなものがあります。

(1)内国歳入法典(Internal Revenue Code, IRC)

IRC Section 162:商業またはビジネスの目的で発生した通常かつ必要な経費は、控除が認められます。

交際費もこれに含まれますが、交際費として認められるには通常のビジネス目的で発生したものである必要があります。

IRC Section 274:特に交際費、接待費用、ギフト、および従業員の福利厚生に関する控除制限を定めています。

Section 274(a)では、交際費の一般的な控除禁止について言及し、Section 274(n)では食事費用の50%控除制限について規定しています。

(2)財務省規則(Treasury Regulations)

Treasury Regulation §1.162-2:ビジネスのための旅費や交際費の一般的な取り扱いについて規定しています。

Treasury Regulation §1.274-2:交際費、娯楽費用、ギフト、および従業員の福利厚生に関する詳細な規則が記載されています。

この規則では、ビジネス目的での交際費の認定基準と記録保持の要件が説明されています。

(3)IRSのガイダンス

IRS Publication 463:Travel, Entertainment, Gift, and Car Expenses:この出版物では、ビジネス関連の旅費、交際費、ギフト、車両経費についてのガイドラインが提供されています。

交際費については、ビジネス関連性の証明方法、控除の適用条件、記録保持の要件などが詳細に説明されています。

(4)その他の参考資料

IRS Notice 2018-76:2017年の税制改革法(TCJA)に基づく食事および交際費の扱いに関する暫定的なガイダンスを提供しています。

この通知では、ビジネス関連の食事費用に対する50%控除の適用条件が明確化されています。

IRS Regulations §1.274-5:交際費および娯楽費用の記録保持要件について規定しています。

控除を受けるためには、日付、場所、参加者の名前、ビジネス目的などの詳細な記録を保持する必要があります。

具体的な条文の例

  • IRC Section 162(a):”There shall be allowed as a deduction all the ordinary and necessary expenses paid or incurred during the taxable year in carrying on any trade or business…”
  • IRC Section 274(a)(1):”No deduction otherwise allowable under this chapter shall be allowed for any item with respect to an activity which is of a type generally considered to constitute entertainment, amusement, or recreation…”

これらの根拠条文やガイダンスに基づき、交際費の定義と範囲、およびそれらの控除条件を理解し、適切に対応することが重要です。

まとめ

ビジネスの成功には、顧客や取引先、従業員との良好な関係が不可欠です。

交際費の正しい取り扱いを通じて、これらの関係を強化し、持続的な成長を実現しましょう。

適切な記録を保持し、ビジネス目的を明確にすることで、合法的かつ効果的な交際費控除を活用することが可能です。

最後に、交際費の管理と税務対応には常に最新の情報を把握し、必要に応じて専門家の助言を求めることをお勧めします。

これにより、ビジネス活動を円滑に進めるとともに、税務上のリスクを最小限に抑えることができます。

監修者

小林 賢介

早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。