アメリカ 雇用主の責務
ビジネスの拡大に当たっては、従業員の雇用が不可欠になります。アメリカでビジネスを始めた方にとっては、雇用に当たって何をしなければならないのか、雇用主としての義務は何かというのを網羅的に理解するのは中々難しいものです。今回は、雇用に関する経営者の義務について解説していきます。
雇用の際はどんなルールに従えばいいの?
アメリカの雇用のルールは、雇用法によって定められております。つまり、アメリカで誰かを雇用する場合は、雇用法という法律を理解し、当該法律に従う必要があります。アメリカは州の権限が非常に強く、所得税法同様、雇用法にも国の法律である連邦法と州の法律である州法の二種類の法律が存在します。
連邦法と州法は内容が重複する場合も多く、それぞれで従業員の採用、賃金、ベネフィット、退職、解雇、差別、ハラスメント等について定めております。内容が重複した場合は基本的に連邦法が優先されますが、最低賃金等で州法のほうが厳格な場合(州で定めた最低賃金のほうが高い場合)、州法が優先されます。また、雇用保険の加入等は別途定められており、連邦から要求されているもの、州から要求されているもの両方に従う必要があり、両者を確認する必要があります。
雇用するためにしなければならないことは?
雇用主は、対従業員及び対政府(連邦及び州)に対して最低限以下のような手続きを踏む義務があります。
・対 従業員
―オファーレターの発行
―Form I-9の入手
―Form W-4の入手
・対 政府
―StateへのBusiness Registration
―Unemployment Insurance (失業保険)への加入
―Workers’ Compensation(労災保険)への加入
―State Disability Insurance (傷害保険)への加入
―Paid Family Leave(家族援護手当)への加入
―Payroll Tax(給与税)の納付
オファーレターとは?
採用される方が決まったら、まずはオファーレターを出すことが一般的です。アメリカの雇用形態は、employment at willといって、雇用主、従業員ともにいつでも解雇、退職できる不定期の雇用形態が一般的です。従い、雇用期間等が定められた“契約書”としての雇用契約書は存在しない場合が多いです。
オファーレターには、入社予定時期、従事する業務、報酬、休暇、労働時間等の条件が記載されており、これに署名をしてオファーを受ける形式となっています。オファーレターの作成は直接弁護士に依頼することも可能ですが、最近ではウェブ上でテンプレートを提供している法律事務所がたくさんあります。もちろん弁護士の方はお勧めはしないと思いますが、費用節約ためにそういったサービスを利用することも可能です。
I-9 とは?
I-9(労働適格者証明)とは、米国内での雇用の際に、従業員の身元と就労許可の有無を証明するために使用されるFormであり、従業員および雇用主の両者が記入を行わなければなりません。Formは米国移民局(USCIS) のウェブサイトhttp://www.uscis.gov/i-9 より入手することが可能です。雇用主は、従業員の雇用開始から3年間もしくはその従業員の離職後1年間、 どちらか遅い日付まで、Form I-9を保持・管理する義務があります。
W-4とは?
Form W-4とはEmployee’s Withholding Allowance Certificateで、雇用者が従業員の給与から適正に源泉徴収を行うためのFormです。雇用者は従業員の就労開始前に従業員に当該Formを入力してもらい、回収する必要があります。雇用者は当該Formをベースに源泉徴収額を決定いたします。
State Business Registrationとは?
雇用法は州によって異なります。従い、従業員が複数の州から通勤している場合には、それぞれの州でBusiness Registrationを行う必要があります。例えば、オフィスはニューヨーク州にあるが、ニュージャージー州から通勤している従業員がいる場合、ニューヨーク州及びニュージャージー州の両州でBusiness Registrationを行わなければなりません。Business Registration自体は、それぞれの州のDepartment of TreasuryやDepartment of Laborのウェブページよりオンラインで行うことができます。
Unemployment Insuranceとは?
日本と同様にアメリカでもUnemployment Insurance(失業保険)への加入は義務となっており、従業員が一人でもいる全ての雇用者が対象になります。Unemployment Insuranceは、州によって管理がなされています。従い、雇用が行われる州にてUnemployment Insuranceの登録を行う必要があります。Business Registrationと異なり、ニュージャージ―州在住、ニューヨーク州勤務の方がいるような場合でも、ニューヨーク州のみでUnemployment InsuranceのRegistrationを行えば結構です。
保険料は毎年変わりますが、2018年のニューヨーク州の新規雇用者のレートは3.525%となっております。また、ニューヨーク州の場合、四半期に一度NYS-45というフォームを申告して支払いを行います。
Workers Compensationとは?
Workers Compensation(労災保険)は、従業員が一人でもいる場合、アメリカのほとんどの州で強制加入となっております。就業中の事故によるケガ等を保証する保険になります。Unemployment Insuranceと異なり、州政府が管轄を行っているのではなく、雇用主各自が民間の保険会社を通じて保険に加入する必要があります。労災のリスクは業務内容によって大きく異なるため、保険料も業務内容によって異なります。保険料は全額会社負担となります。
Workers Compensationを提供する保険会社はたくさんございますので、ウェブで検索すればすぐに見つけることができます。内容やコストはどの保険会社もあまり変わらないので、それほどここには労力をかけず、粛々と手続きを進めることが無難だと思いまう。
State Disability Insurance とPaid Family Leave
State Disability Insurance (傷害保険)とPaid Family Leave(家族援護手当)は、workers compensationと同様、民間の保険会社の管轄となっております。加入の要否は州によって規定されおりますが、ニューヨーク州やカリフォルニア州では強制加入となっております。通常workers compensationを提供する保険会社がこれらの保険も合わせて手配してくれます。workers compensationと異なり、従業員と雇用主の双方が半分ずつ負担することが原則なっています。但し、ニューヨーク州等一部の州においては雇用主が全額を負担することも可能となっています。
Payroll Tax
雇用主は、上記のほか、従業員の給与から連邦税、州税、社会保険税等の給与税を源泉徴収し、納付する義務があります。詳しくは次回のコラムにて解説致します。
監修者
小林 賢介
早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。